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インタビュー:キャピタル・インターナショナル株式会社 代表取締役社長 小泉徹也
小泉徹也氏(こいずみ・てつや)は1990年に慶應義塾大学法学部を卒業し、日本生命保険相互会社に入社。その後、2017年にフィデリティ投信株式会社執行役員副社長、2018年にドイチェ・アセット・マネジメント株式会社社長に就任。2021年1月よりキャピタル・インターナショナル株式会社 代表取締役社長に就任。
日本の資産運用業界のリーダーシップに関するインタビューシリーズの第2回では、キャピタル・インターナショナル株式会社の代表取締役社長である小泉徹也氏が、日系企業から外資系企業への転職、日本人としては稀なアジア地域の統括任務、またワークライフバランスの維持についてご紹介します。
八反田 紗理(以下 八反田):新卒で日本生命に入社され、その後ほかの外資系運用会社でのご経験を経て、なぜキャピタル・インターナショナルの社長ポジションに就こうと思われましたか?
小泉徹也(以下 小泉):30年ほど前、米国の日本生命子会社に勤めていたときに、初めて投資をした投資信託の中に、キャピタル・グループのファンドがありました。何も意識せずに買ったファンドでしたが、人生何が起こるか分からないものです。資産運用ビジネスとの出会いは、まさにこのとき米国で携わったDC(確定拠出年金)事業でした。特段裕福ではない普通の人たちが、投資を通じて幸せな老後に向けて準備を進める姿を見て、日本でもこれが当たり前になるべきではないか、と強く感じました。
また当時米国シカゴに駐在し、現地の人々と実際に働いた経験が、後に外資系運用会社でチャレンジしようと思ったきっかけにもなりました。
キャピタル・グループの運用資産残高のおよそ3分の2がIRA等の個人退職勘定や401(K)等の確定拠出年金制度といった長期の資産形成を目的とした非課税制度の受け皿となっています (2023年12月末現在) 。特に、中小企業を対象とした401(K)プラン向けサービスにおいて定評があり、リーディング・カンパニーとして高い評価を得ているだけでなく、高いマーケットシェアも持っております。このように、米国において普通の勤労者への投資の普及に貢献してきたキャピタル・グループであれば、今まで以上に日本の皆さまが豊かな生活を送ることをサポートできると考えました。
八反田:これまでのどのような経験が現在のご活躍に活かされていますか?またどのような要因が成功へつながったと感じられますか?
小泉:先ほども触れましたが、資産運用が国民に浸透している米国で資産運用ビジネスに携わった経験が、私が事業運営を検討する際に非常に役立っています。日本でも「つみたてNISA」や「iDeCo (イデコ・個人型確定拠出年金)」制度の充実などを通じて投資が一般的になりつつあります。米国で、人々が当たり前に投資をしている環境を実感し、投資を推進する仕組みの一部として働いた経験が、日本での投資の普及にはどのようなことが必要か、また資産運用会社としてどのように貢献できるかを考えるヒントとなっています。
また、会社経営という意味では、若いうちから経営者と話す機会に恵まれたことも重要な資産となっています。例えば、株式会社 ファーストリテイリングの柳井さんと最初にお会いしたのは15年以上前で、当時は海外事業を発展させることに注力されており、大きな目標を持ち高品質な製品およびサービスで世界に進出する姿に感銘を受けました。私たちも、高品質な商品およびサービスを提供し、業種の枠を超えたモデル企業となれるよう日々切磋琢磨しています。
八反田:小泉様は昨年からアジア太平洋地域(APAC)も統括されることになりましたね。まだ日本人としてこのような役職に就かれていらっしゃる方は業界内でも稀ですが、リージョンをマネージしていく上でのやりがい、難しさについて教えていただけますか?
小泉:幸いなことに、キャピタル・グループは企業カルチャーが非常に強く根付いているため多国間でのカルチャー・ギャップによる難しさなどは比較的少ないと感じています。難しさとしては、日本とは異なり肌感覚のない他国のマーケットについてデータを頼りに判断をしていく必要がある点が挙げられます。また、各国でマーケットの状況が異なるため、全体の方向性を一致させるための調整に、日本単体のビジネスを考えていた時より多くの時間がかかることもあります。私は、自分の時間の5割を日本に、残り5割をAPACに充てており、実際に出張で現地にも定期的に足を運んでいます。経験不足は現地の優秀なリーダーが補ってくれますし、各国の意見を丁寧に聞いた上でアジア全体の目線を合わせ、皆で一つのチームとして協力しながら目標を達成することにやりがいを感じます。また個人的には、アジアのマーケットについて学び、戦略の立案と実践を通じて充実した時間を過ごしています。ビジネスのマネージメント手法は、日本、APAC、グローバルのどこでも同じだと思います。社員一人ひとりが働きやすい環境を作り、ビジネスのビジョンや方向性を明確に示し、コミュニケーションを十分にとることが大切です。
八反田:小泉様のように日本社長、さらにその先のAPACリーダーを目指したい方々にアドバイスをいただけますか?
小泉:会社の方向性やビジョンを打ち出すことが、社長の重要な仕事の一つです。長期的な目線で会社、業界、社会のことを捉えて会社の方向性を決定し、種蒔きをはじめなければいけません。他メンバーが考えない新たなアイデアを考え、時には社員からすると突拍子もない提案などもしながら、事業を前進させていきます。リーダーを目指している方には是非、目の前の業務のみに注力するのではなく、こういった視線を持ちながら日々を過ごしてほしいと思います。そして環境が許すのであれば、自分のリーダーや社長と話をしてみてください。
実は私も、会社で社員を集めて30年後の日本ではどういった金融サービスに需要があるのか、その中で私たちはどういった役割を果たすべきかを検討するチームを立ち上げたことがあります。日々の仕事の中ではこのようなことを考える機会はあまりないと思いますが、意識的に検討することで新しい学びにもつながりますし、視野が広がると思います。
八反田:本社の期待値マネージメントはどのようにされていらっしゃいますか?また採用やチームの強化についてはどのようにお考えですか?
小泉:APACのビジネスは勢いがあり業績が伸びているので、グローバルでも注目されています。特に日本は米国に次いで大きいマーケットであり、APACとして今後も成長が見込まれているので、チームを強化していくという意味でも非常に恵まれた環境にあります。東京オフィスでは昨年より、ファイナンシャル・アドバイザー(FA)がお客さまの生涯の資産形成をサポートするために開発され、米国で普及している教育・研修システム「キャピタル・ラーニング」を日本のFAや金融機関に提供する試みを始めました。また、グローバルでも行っていないようなビジネスの展開も予定されているため、今までとは異なるスキルを持った人材も必要となっています。「投資の成功を通じて人々の人生をより豊かにする」という私たちの理念に賛同いただけるメンバーを増やし、今まで以上に強いチームを作っていきたいと考えています。
また、APAC内でのメンバーのローテーションも実現できれば、と考えています。普段はオンラインでコミュニケーションをとっている社員同士が、同じオフィスで日常的に働くことで、各国で培った知見の共有やチームワークの強化につながると考えています。本社との期待値のマネージメントという意味では、長期計画とは別に毎年ボトム・アップとトップ・ダウンの両サイドから次年度の計画をすり合わせています。また、毎月ニュースレターを書いて本社のマネージメントのメンバーにも送っています。
八反田:実は小泉社長と私との出会いは仕事外の馬術競技がきっかけで、私たちはともに障害飛越競技への強い情熱を共有しています。小泉社長は、かつて慶應義塾体育会馬術部副将としてご活躍をされていた経験もお持ちです。現在もオリンピック選手のもと指導を受け、フルタイムでのキャリアを持つ数少ないアマチュア選手としてプロに混ざって全日本クラスで競技をされていらっしゃいます。プライベートとの両立やバランスについてお聞かせください。
小泉:週末には可能な限り、中学生の時に始めた馬術の練習をしています。11月の全日本大会の出場資格を得るために競技会にも参加しています。馬と良いパートナーシップを築き、馬がリラックスした状態で競技に臨むために一番重要なことは常に非言語コミュニケーションを継続することだと考えています。馬との時間に集中することは、仕事から頭が切り替わる、重要な気分転換の時間となっています。また、平日には朝の空き時間にヨガやトレーニングをすることでリフレッシュしてから仕事を開始しています。
米国、欧州とのやり取りを密に行っているため、時には変則的な時間に会議に参加することもありますが、キャピタル・グループではDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の考え方が浸透しているため、米国本社にとって都合が良い時間帯に一方的に会議が設定されることはほとんどありません。アジア勢にとっても参加しやすいよう 2回に分けて会議が行われたり、どの地域のタイムゾーンに合わせるかが順番になっていたりと、オフィスに関わらず全員のワークライフバランスを尊重する雰囲気が出来上がっています。私自身も積極的に夏休み等の休暇をとるようにして社員の皆さんのお手本となるよう心掛けています。
八反田:今後の目標や課題などについて教えていただけますか?
小泉:日本において資産形成、投資が生活の一部になるような取り組みを継続していきます。誰もが投資を通じてより幸せな人生を送れるようにすることが大切です。私は、日本に長期継続投資を根付かせるために大切なことが三つあると考えております。一つ目は、自動的に貯蓄ができるような仕組みを作っていくことです。例えば、企業型DCや個人型DC、「つみたてNISA」であれば、毎月、自動的にお金を積み立てることができ、DCは60歳まで引き出せないので、長期の資産形成ができます。
二つ目は、若い人にお金について考える機会を与えることです。彼らにとって老後はまだまだ先の話ですが、どのような人生を送りたいか、夢を実現するにはどのようにお金を管理するべきかーといったことを、なるべく早い段階で考えてもらうことが大切です。
三つ目は先ほども触れた、アドバイザーの育成です。昨今のように株価が急落すると誰でも不安になりますが、マーケットにとどまり、継続的に投資していくことの重要性を助言してくれる人が必要です。日本において、こうしたアドバイザーを増やしていきたいと考えています。APAC全体では、地域ごとにマーケットの状況が異なるため、一概に具体的な戦略を語ることは難しいですが、各地域にあった運用戦略を展開することで、投資を通じてより多くの人が幸せな人生を歩めるように事業を拡大していきます。
インタビュアー:八反田 紗理(はったんだ さり)
ハイドリック・アンド・ストラグルズ合同会社(東京オフィス所属)の金融プラクティスのプリンシパルとして従事。主にアセットマネージメント、プライベートエクイティ/プライベートマーケット、保険セクターのシニアな人材に豊富な経験を持つ。
連絡先:shattanda@heidrick.com