インタビュー: Nuveen代表取締役社長 シニア・マネージング・ディレクター 鈴木 康之
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インタビュー: Nuveen代表取締役社長 シニア・マネージング・ディレクター 鈴木 康之

日本の資産運用業界のリーダーシップに関するインタビューシリーズの第 1 回:ヌビーン・ジャパン株式会社 代表取締役社長 鈴木康之氏が語る日本市場への参入戦略、市場慣行の尊重とダイバーシティの重要性
July 12, 2024
鈴木 康之はヌビーン・ジャパン株式会社の代表取締役社長、シニア・マネージング・ディレクターとして、Nuveenグループの日本ビジネスを統括。 2018年のヌビーン東京オフィス設立時より、日本における経営全般に加え、株式、債券、プライベート・キャピタル、リアル・アセット(不動産、農地、森林、インフラ、コモディティ)など幅広い運用戦略に関するマーケティングおよび商品企画を指揮。また、Nuveenグループのアジア経営委員会メンバー、グローバル・クライアント・グループのシニア・リーダーシップ・メンバーを兼任。 Nuveenグループに入社以前は、ニューバーガー・バーマン、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント、ピムコジャパンリミテッドにて機関投資家およびリテール向けのマーケティング業務、債券およびオルタナティブ商品のプロダクトマネジメント業務などに従事。  

日本の資産運用業界のリーダーシップに関するインタビューシリーズの第 1 回では、ヌビーン・ジャパン株式会社(以下Nuveen)の代表取締役社長 シニア・マネージング・ディレクターである鈴木 康之氏が、オルタナティブ投資に対する市場の需要、段階的アプローチの重要性、異なるバックグラウンドに対する理解の必要性について解説します。

八反田 紗理(以下 八反田):ヌビーン・ジャパンの設立当初、代表取締役社長としてどのような具体的な目標をお持ちでしたか?

鈴木 康之(以下 鈴木):日本は、資産運用業界にとって将来性のある魅力的な市場です。金融庁や東京都を含めた国として業界の拡大を支援するための取り組みは非常に素晴らしいと感じています。

当社は日本市場に関して、「主に機関投資家様向けに商品を提供する営業拠点としての市場(日本の投資資金のアウトバンド)」と「株式や不動産等の投資先としての市場(海外からの投資資金のインバウンド)」という2つのビジョンを掲げて、拠点を設立しました。

「 営業拠点としての市場」という点ですが、当時オルタナティブ投資に対する注目が高まっていることを鑑みて、日本へ進出するよいタイミングであるという判断がなされました。オルタナティブの中でも特にニーズが高まりつつあったのはインフラ、農地、森林などのリアル・アセットでした。例えば、カーボン・ニュートラルや脱炭素化に関する需要を背景に森林投資戦略などへの関心が強まっていました。また、インフラデットファンドなどのインカム性資産については市場の変動性が高まる中で、安定的にインカムを獲得したいというニーズが背景にあると考えています。日本の投資家様からの約3兆円の資産のうち、オルタナティブ投資は約6,000億円に上ります。

また、「投資先としての市場」という観点においては、当社では以前から日本の投資家様からの資金を受託・運用するだけでなく、海外の機関投資家様による日本市場への投資も促したいと考えていました。一般的に、外資系の資産運用会社は日本の機関投資家様から資金を集めて主に米欧の資産に投資・運用しますが、当社では日本のマーケットの成長にも貢献すべきという考えから、当社グループの親会社である TIAA(米国 教職員退職年金/保険組合)や海外の機関投資家様から集めた資金を日本の資産クラスにも振り分けています。

八反田:御社の設立と同時期に多くの外資系資産運用会社が日本にオフィスを設立しましたが、既に撤退した企業もあります。そうした企業と御社とでは何が違いとなり、成功に繋がったのでしょうか?

鈴木:日本市場への参入において、段階的なアプローチを取ったことが成功に繋がったと考えています。当初、日本でのビジネスを立ち上げる段階では人材を採用せず、私一人だけで立ち上げを行いました。一方、市場参入時から多くの人材を採用し、東京の中心部にオフィスを設けるなど、設立時の準備費をかけ過ぎる企業も多く見受けられました。

2018年に香港オフィスにてスタートし、日本でのビジネスおよび収益の基盤ができるまでは、人材の積極的な採用は行いませんでした。ビジネスが本格的な軌道にのって2019年に本邦投資家様からの受託残高1兆円を達成して以降は、毎年3~4名程度ずつ採用していきました。また、新たな人材を採用する際には、特に当社の企業カルチャーに適した人材かどうかを検討しました。企業にとって採用のミスマッチは組織全体に悪影響を及ぼす可能性があるため、設立当初に大量採用をするのではなく、時間をかけて、カルチャーフィットに重点をおきながら組織を作り上げました。おかげさまで日本オフィス開設以来、当社社員の定着率は極めて高くなっています。

八反田:御社の企業戦略はどのようなものですか?

鈴木:当社の企業戦略としては、日本の機関投資家様のニーズに合ったさまざまな運用戦略を提供し、市場環境の変化に応じ、柔軟に対応している点です。上述のように、日本法人の開設前に作成した中長期の経営計画では、オルタナティブが中心のビジネス展開を予想していましたが、コロナ禍となり一時的にマーケットの流動性が枯渇したため、機関投資家様を中心にオルタナティブの予算拡大が難しくなりました。結果的に、2020年までは債券と株がビジネスの中心となりました。債券については、米国地方債、社債、証券化商品の戦略などに、多くの投資家様から資金が集まりました。2021年以降は市場が安定し、オルタナティブ投資への需要が再び増加し始めました。

さらに、日本で成功を収めている理由として、日本の市場慣行・商慣行を尊重している点も挙げられます。例えば、他の外資系運用会社では、本社の意向を踏まえ、アドミニストレーション業務は外資系の提携先企業を選定する傾向にあります。Nuveenでは商品のラインナップが豊富なことから、運用サービスの提供においては信託銀行や証券会社など国内の金融機関と連携して、投資家様の立場からみても最善かつ適切な運用サービスの提供モデルを柔軟に取り入れてきました。

八反田:本社からの期待値マネジメントはどのように行われていますか?

鈴木:他の外資系日本法人は、香港またはシンガポールがアジア拠点の傘下となっているケースが多いですが、当社は米国本社直属の組織なので、その点も大きな利点だと考えています。本社の経営メンバーや運用チームに対しては、メールのみにとどまらずオンライン会議を適宜開催するなど緊密にコミュニケーションを行っています。そうしたきめ細やかなコミュニケーションが、本社との認識のズレを無くす上で重要であると考えています。私たちはお客様のニーズやご要望に対して、本社と連携しながらより迅速に応えることができるように努めています。

これまで多くの時間をかけて、本社に対して日本市場に関する説明を行ってきました。日本のお客様は、関係を構築し案件を獲得するまでに時間がかかり、手厚いサービスを提供する必要があります。例えば、公的年金の投資家様から大きな受託業務の発表があると、そのニュースがグローバルに流れ、本社からは日本法人としても当ビジネス機会に対して取り組むように求められることがあります。しかし、これらの大口投資家様に対してはニーズに応えるための適切なリソースや体制が万全に揃ったタイミングでなければ責任を持って受託できる状況にはないことを、本社には何度も説明を行いました。

また、本社も日本法人も共通して、多様性を大切にしています。既にマネージング・ディレクターに2名の女性を起用し、組織体制のより良いバランスを取っています。

八反田:現在の組織構成についてお教えいただけますか?

鈴木:当社ではビジネスの拡大に伴い、人員も増強してきました。日本法人には現在30名ほどの社員が所属しており、オフィスもこれまでより広い場所に移転しました。お客様に質の高いサービスを継続的に提供していくためには、安定的な組織の構築が不可欠だと考えています。それには多様性を維持することが極めて重要です。まだ小さい組織ですが、現時点で男女比率は半々、年齢構成・経験年数・バックグラウンドもバランスを取って採用しています。

当社の日本法人の立ち上げ前に他社の雇用状況を幅広く調査しましたが、男女比率・年齢構成等が偏っている事例が多くみられました。そのため当社では、長期的な視点に立って安定的な組織運営を行っていくために、設立当初からダイバーシティを重視した組織の構築に努めています。その結果、社員の働きやすさが、雇用の定着率に繋がり、さらにそうした点がお客様との信頼関係の構築につながっていると考えています。

また、当社はワークライフバランスも大切にしています。私は付与されている年次休暇を全て消化して、チームのお手本になれるように取り組んでいます。もちろん、時差の関係から深夜に海外のチームと電話会議をする日もありますが、持続可能な職場環境を目指しています。

八反田:今後の目標や課題についてはどのようにお考えですか?

鈴木:引き続き日本の投資家様のニーズに合った魅力的な資産クラス・運用商品を提供していきたいと考えています。これまでは金融機関を中心にビジネスを展開してきましたが、今後は年金基金様や大学基金様、あるいは個人投資家様に向けてもサービスを展開していきたいと考えています。近年、富裕層の個人投資家様からの資金流入が増えているため、今後もこうしたトレンドは加速していくと考えています。

個人投資家様向けには、一貫して長期の資産形成に資する資産としてマルチ・アセット商品を提供してきました。機関投資家様からもマルチ・アセット商品へのニーズは高く、金融庁からも高い評価を受けています。日本政府の掲げる「資産運用立国」の実現に向けて、当社では「商品提供」という形で期待に応えていきたいと考えています。

Nuveenは非上場企業のために短期的な利益を追う必要がなく、投資家様と同じ目線で長期的なリターンを目指せることが強みの一つです。また、私たちのきめ細かなサポート体制は投資家様による案件の解約率の低さにも表れています。今後も運用においてリスク調整後リターンの向上を目指すとともに、お客様様に寄り添ったサービス提供をさらに強化していきます。

八反田:今後キャリアで代表取締役社長やマネージング・ディレクターを目指している次世代人材へのアドバイスをお願いします。

鈴木:経験は時間をかけて構築する必要がありますが、知識量は努力によって短期間でも飛躍的に増やすことができます。私は広範な知識を得るために多くの時間を費やし、結果的に私が身につけた知識はお客様や同僚との信頼構築につながりました。

私からのアドバイスは、ご自身の中にロールモデルとなる人物を思い描き、その人の良い部分を取り入れることです。私はキャリアを通じて出会ったメンターや上司、さらにはお客様からも、それぞれの強みを学び取りました。

私が2018年に日本法人の代表取締役社長の職に就いたのはまだ30代半ばで、当時では、同職としては比較的若い方でした。現場の実務に深く関わることができるという点では若さは利点となり、日々の業務や数字に深く関わることができました。特にスタートアップでは、自分自身がプレイングマネージャーであることは重要だと思います。

また、多くのお客様との出会いを大事にして学びを得ることを継続してきました。若手時代にお世話になったお客様とのリレーションは、当社のビジネスにおいても非常に重要な原動力となっています。

八反田:御社のような企業への入社を目指している日本人のエグゼクティブ人材に向けて、一言お願いします。

鈴木:タイトルや経験年数にかかわらず、ソフトスキルとハードスキルのいずれにおいても日々の自己研鑽を続けることで、キャリアの可能性は自ずと広がっていきます。また、常に前向きな環境に身を置くように心がけ、同じキャリア目標を持つ方々と積極的に会うことが大事だと思います。

八反田:日本国外に本社を構える企業の経営層に対して、日本人の社長を採用し、人材を維持するためのアドバイスをお願いします。

鈴木:「Mutual Respect(相互尊重)」を重視しながら、企業のカルチャーとビジョンを共有することが大切だと考えています。企業の役割をよく理解して誇りをもって働くことができれば、お客様との長期にわたる信頼関係とビジネスの成功が生まれると確信しています。


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インタビュアー:八反田 紗理(はったんだ さり)

ハイドリック・アンド・ストラグルズ合同会社(東京オフィス所属)の金融プラクティスのプリンシパルとして従事。主にアセットマネージメント、プライベートエクイティ/プライベートマーケット、保険セクターのシニアな人材に豊富な経験を持つ。

連絡先:shattanda@heidrick.com

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