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インタビュー:
HSBCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長 北アジア担当機関投資家営業統括責任者 金子正幸
日本の資産運用業界のリーダーシップに関するインタビューシリーズの第3回では、HSBCアセットマネジメント株式会社(以下HSBC アセットマネジメント)の代表取締役社長北アジア担当機関投資家営業統括責任者である金子 正幸氏が、セルサイドからバイサイドへのキャリア転換、数々の逆境を新しいチャンスに変えるマインドの持ち方、さらに2024年春から北アジアの機関投資家営業統括任務により香港にも拠点を置くようになった背景についてご紹介します。
八反田 紗理(以下 八反田):新卒で入社した日系銀行から外資系への転職についてお話いただけますでしょうか?
金子 正幸(以下 金子):新卒で入行した旧三和銀行(現三菱UFJ銀行)は思い入れのある銀行で、役員を目指したいと思っておりました。国際部に配属され、海外で働くことに興味を持ち、結果的に留学もさせてもらえました。しかし、渡米後に三菱銀行との合併が発表され、組織も変化していく中で新体制下での先行きが不透明となったため、留学中に転職を決意しました。以前、企画部に所属していた際に外資系の投資銀行と仕事をしていたことから、投資銀行業務に興味を持ち、MBA修了後ドイツ証券投資銀行本部に転職しました。アソシエイトからはじめ、最終的にはディレクターまで7年間ほど金融機関担当(FIG)として業務に従事しました。
八反田:その後のセルサイドからバイサイドへのキャリア転換についてお話いただけますか?
金子:ドイツ証券ではクロスボーダーM&Aや外債引受業務といった投資銀行業務に邁進する日々でした。しかし、2012年にリーマンショックと欧州危機の影響を受け、私のポジションもクローズとなり、休息をとるために、アジア圏の国を一人旅で巡っていました。旅の途中、偶然にも上海にいる時にヘッドハンター経由でHSBCからのオファーの話をもらい、それがきっかけで、金融機関担当のインベストメントバンカーから商業銀行でのコマーシャルバンカーへのキャリア転換につながりました。当時のHSBCグループは、ドイツ銀行グループのようなハイブリッド銀行を目指そうとしている過渡期にありました。グローバルヘッドが投資銀行出身だったこともあり、特に金法担当はインベストメントバンキングとコマーシャルバンキングの両方の業務を伸ばしていくことが求められていました。それに対応するため、商業銀行業務出身のメンバーに加え、M&Aやデット・キャピタル・マーケット(DCM)の経験を持つ投資銀行出身のメンバーを採用し、チームとしての総合力の強化に注力していきました。
八反田:これまで三菱UFJ銀行との統合やリーマンショックの打撃など、数々の逆境を乗り越え、その度に新たにキャリアを構築されているようにお見受けしますが、どのようなマインドセットをお持ちでしょうか?
金子:私は、同じ業務を5年以上続けていると、ラーニングカーブが緩やかになるのを感じ、新たなチャレンジを求めたくなる気持ちが生まれてくるようです。日本の銀行では転職しなくても社内での異動があるため、国内外に関連するさまざまな業務を経験する機会が与えられました。一方で、外資系ではプロフェッショナル採用が主流であり、専門職としてキャリアを極めていくキャリアパスが一般的です。そのため、自ら積極的にキャリアを形成していく必要があります。
HSBC銀行で金法ヘッドを務めて6年ほど経ったころ、グローバルバンキング部門の共同責任者も兼任していました。そのタイミングで、HSBCアセットマネジメント株式会社(HSBCアセットマネジメント)の日本社長が駐在を終えることになり、採用プロセスにアプライしないかと声をかけられました。過去にインベストメントバンカーとして運用会社のディール(出資や買収のアドバイザリー)を担当した経験もありましたし、HSBCにとってアセットマネジメント業務は今後経営資源を投入していく成長分野でした。戦略アイデアをすでに考えていたので、新しいポジションにチャレンジしたいと思いました。
八反田:2024年春から部分的に香港にも拠点を移されてお過ごしとお伺いしておりますが、この異動についてはどのような背景があったのでしょうか?
金子:HSBC アセットマネジメントの日本社長に就いてから4年経過した頃、アジア経営会議メンバーとプロジェクトで一緒になる機会も増えていき、グローバル本社である香港での経験を積みたいという意欲が湧きました。その頃に機関投資家営業の北アジアの統括を務めていた担当者が退職することになり、その後任としてその業務と日本社長の職務を兼任することになりました。現在は、機関投資家営業については日本だけでなく、中国、韓国、台湾、香港といった北アジア全域を担当しております。北アジアのビジネスは非常に勢いがあり、日本とはまた違った面白さを感じています。1年の半分弱を香港で過ごしていますが、香港はアジアでビジネスをするのには最高の立地だと感じています。例えば、オフィスでの打ち合わせを終えた1時間後には空港のラウンジで出張の飛行機を待ちながらZoom会議に参加したりします。
八反田:現在、お仕事ではどのようなことを意識していらっしゃいますか?
金子:日本の社長業と北アジア地域の機関投資家営業統括を引き続き兼務しているため、経営と営業の役割における時間配分にはまだ課題を感じています。最近では、香港から日本語が話せるChief Operating Officer(最高執行責任者)を社内異動で迎えたことで、日本チームを強化することができました。
八反田:将来の日本のリーダーに対して、どのようなことを期待していらっしゃいますか?
金子:私は、日本からグローバルに通用する本質的な強みを持った人が多く出てくることに期待したいです。海外では、日本に比べ、アクティブで向上心があり、ハングリー精神が強い経営幹部や取締役が多いと感じます。日本では留学や海外転勤を希望する人が減っていると聞いて残念に感じています。日本人の強みである計画性や正確な執行力、思いやりや協調性といった特質を生かし、広い視野をもってグローバルに活躍できる人が増えていくことを期待しています。
インタビュアー:八反田 紗理(はったんだ さり)
ハイドリック・アンド・ストラグルズ合同会社(東京オフィス所属)の金融プラクティスのプリンシパルとして従事。主にアセットマネージメント、プライベートエクイティ/プライベートマーケット、保険セクターのシニアな人材に豊富な経験を持つ。
連絡先:shattanda@heidrick.com